2023 年 8 月に試験運用が開始された Google の SGE(※)。会話形式で検索ができるため、ユーザーの検索行動が大きく変わるのではないかと注目されています。EC 事業者が活用している Google ショッピング広告をはじめ、商品データ活用の未来について、Google Merchant Center の第一人者である Yuwai 株式会社の田中さんに伺いました。
※SGE(Search Generative Experience)は Google が提供する生成 AI を利用した新しい検索体験。AI によって検索結果が生成され、会話形式での検索が可能。
お答えいただいた方: Yuwai 株式会社 代表取締役 田中 広樹 様(写真、中央) 日本放送協会で放送エンジニアとしてキャリアをスタート、後にキャリアチェンジでインターネット広告の世界に飛び込む。大手インターネット専業の広告代理店で約 3 年の勤務を経て、アナグラム株式会社に創業期メンバー(第一号社員)として参画し、11 年 8 ヶ月従事。2023 年 8 月に退職したのち、同年 9 月に Yuwai 株式会社を設立。 運用型広告のほか、Google ショッピング(Google Merchant Center)、データフィード広告、Google タグマネージャー、Google アナリティクスなどマーケティング関連プラットフォームの活用に強みをもつ。
※記事の内容は 2023 年 12 月 19 日にインタビューした時点の情報です。
SGE が表示されるクエリは限定的になる見込み
――― SGE が注目されていますが、EC 関連の検索結果にどのような影響がでると考えていますか?
まず前提として SGE は試験運用の段階であるため、正式版では今と同じ仕様になるかはわかりません。SEO の観点で SGE が語られていたりしますが、変わる可能性があることは理解しておいたほうが良いでしょう。
そのうえで、SGE は検索結果の上部に表示されるので、広告やオーガニック経由のトラフィックは減るはずです。ただし、Google は広告収入によって成り立っていることを考えると、SGE によって広告のクリックが減ることは想定しにくいです。
そう考えると、SGE はすべての検索結果に出るのではなく、表示されるクエリが限定的になると予想しています。
たとえば、「子供の自転車 選び方」のような情報を探すクエリの場合に SGE が表示されるのではないでしょうか。一方で商品の型番のように、購入したいものが明らかなクエリの場合はショッピング広告が表示されると思います。
「〇〇の選び方」のようなクエリは、チャットで会話をしながら購入する商品を具体化していくイメージです。
――― ランキングを検索するクエリでも、SGE が表示される印象があります。
ランキングをみるということは購入する商品を悩んでいるので、SGE が手助けできると判断しているのではないでしょうか。
ただし、商品カテゴリによっては SGE が出てくるケースもあれば、楽天市場のランキングや価格.com のページがオーガニックで表示されることもあります。売れ筋をみるには SGE よりも各社のランキングページが良いと Google が判断している可能性があります。
――― 広告メニューで SGE の影響を受けそうなものはありますか?
比較・検討段階の広告メニューだと従来の検索広告が主に影響を受けると思います。
ショッピング広告も比較の要素はありますが、具体的な商品名のクエリに対しては SGE ではなくショッピング広告が表示されるケースが多いようです。仮に SGE の表示が増えても、SGE の中にショッピング広告が表示されるデモが公開されていることから、インプレッションが減ることは考えにくいです。
ディスプレイ広告は比較・検討の前段階なので、影響はないと考えます。
EC 事業者は SGE を悲観的に捉える必要はない
――― SGE によって、ユーザーの検索行動はどのように変化すると思われますか?
実はユーザーの検索行動は大きく変化しないのでは?と考えています。検索の歴史を振り返ると、音声検索など色々な形が提供されてきました。しかし、結局は「自転車 通販 オススメ」のように文章ではなく単語の連なりで検索することが大半です。
SGE じゃないと困るというシーンに出会ったことがありませんし、現時点では SGE を使っている話もあまり聞きません。
こうした背景から、SGE は Google 検索に代わるのではなく、部分的に混ざってくる形になると思います。ショッピング広告についても SGE に内包されるわけでなく、追加で SGE の中にも表示される形です。
――― ユーザーの検索行動が大きく変わらないとして、EC 事業者は SGE をどのように捉えるべきでしょうか?
購入系のクエリでは引き続きショッピング広告が表示されるはずなので、コマース文脈では SGE によってトラフィックが大幅に減少するのではないかという悲観的な捉え方はしなくてよいと思います。
一方で、比較・検討段階のクエリでは SGE が表示される可能性が高い。そして、そこにショッピング広告が表示される可能性もあることを踏まえて、自社のトラフィックを増やすためにどうすればいいのかを考えていく必要があります。
ただ、SGE は生成 AI を活用していて再現性が無いため、具体的な方法が見つかっていないというのが現状です。
近道や裏技はない。基本に忠実に商品データを Google に提供するのが大事
――― 具体的な方法が見つかっていない中でも、重要だと思われていることはありますか?
SGE も Google 検索と同じようにクロールした情報やショッピンググラフ(※)のデータを使っているはずなので、「良いコンテンツを作る」というのが本当に大事なことだと思います。
商品ページをちゃんと作りこみ、商品データを漏れなくダブりなく Google に提供するという、基本に忠実なことをやるしかない。多分、近道や裏技は無いんですよね。
これは商品を販売する小売だけでなく、製造するブランドにも言えることで、正しい情報をショッピンググラフに登録しておきたいですね。Manufacturer Center に正しい情報を登録しておくと、GTIN(JAN や ISBN コード) で紐づけることができるようになります。小売だけでなくブランドも Google に情報を提供することで、間違った情報が世に出ることを防ぐ効果があります。
※「ショッピンググラフ」は Google が保有する、世界中の商品と販売者のリアルタイム データセット。何十億もの世界中の製品リストに加えて、在庫状況、レビュー、長所と短所、素材、色、サイズなど、製品に関する具体的な情報が保存されている。
――― Google Merchant Center に商品データを送る「データフィード」の最適化も重要そうですね。
データフィードの最適化がなぜ重要かというと、Google が商品の解像度を上げるための情報がデータフィードだからです。情報が少ないと解像度が低いので、すりガラス越しに商品を見ている状態になります。なんか果物っぽいんだけど、「青りんご」なのか「洋ナシ」なのかわからない。
商品の情報を入れれば入れるほど、Google が何であるかを把握しやすくなります。またユーザーの検索クエリとのマッチ度を高めることにも繋がります。ユーザーの検索リクエストに対して、ぴったりな商品を返すためにもやる必要があります。
私はよく「三方良し」と言ってるのですが、商品情報がちゃんと入っていると、検索語句とのマッチングが取れる。結果、ユーザーが求めてたものが表示され、クリックして購入される。購入されるとその情報を提供した人が儲かる。これが広告経由だったら Google も儲かるという、誰も損しない仕組みになっています。
――― 商品情報をちゃんと入れておくことが、売上に直接つながるということでしょうか?
たとえば、同じ商品を同じ価格で販売している場合を考えてみます。A 店がフィードを完璧に作っているのに対し、B 店はそこまで作っていません。「どちらのお店で買いたいですか?」と聞くと、みなさん A 店と言います。A 店で買う理由は、情報がちゃんと書いてあるので、安心して買えるからです。
同じ商品・同じ価格でも、詳しい情報がわかる方が信頼されやすいというのは、クリック率でもわかります。正確な情報が網羅されていて、クリックされやすいということを Google は把握しています。データフィードの品質が高いと表示が優遇されるので、そのお店はたくさんクリックされて買ってもらえます。
私はよく「あなたも Google になってください」という話をします。データフィードの質は、検索広告の品質スコアと同じようなものです。品質を高めれば低いクリック単価で上位に出せることになります。
SGE があってもなくても、Google のショッピング広告であろうが、Meta だろうが Microsoft だろうが考え方は同じはずなので、商品の情報はちゃんと入れるのが望ましいです。
商品情報は「適切な情報を適切なだけ」
――― 商品情報を入れるうえでの注意点はありますか?
「適切な情報を適切なだけ」というのを心がけています。何でもかんでも情報を入れるのではなく、そのカテゴリー・商品を把握するのに必要な情報を適切に入れるようにしています。
例えば、冷蔵庫を買う時に「素材:プラスチック」という情報まではいらないですよね?どうしたら、みんなが心よくクリックをしたり、購入をしてくれるかを考える。その上でデータフィードを最適化し、適切な情報を提供してあげるということが大切です。
――― 頑張って情報は入れているけど、適切でない例はありますか?
SEO でもありますが、検索に引っ掛けたいがためにキーワードを詰め込んでしまっているケースがあります。ギフト系の商材でよく見ますが、時期が過ぎているのに「父の日」というキーワードをタイトルや商品説明文に固定で入れていたりします。時期に合わせて、「父の日」「母の日」と入れるキーワードをメンテナンスするのが望ましいです。
また、データフィードにキーワードを入れるだけでなく、遷移先の商品ページにコンテンツが用意されていることも重要です。コンテンツが無いのであれば、キーワードは入れない方がいいですね。データフィードには「内祝い対応」って書いてあるのに、商品ページに何も書かれていなかったら「本当に対応しているのかな?」となりますよね。
商品点数が増えるとメンテナンスできなくなり、「父の日」「母の日」のようにシーズナリティに合わせて定期的に更新が必要なものが手つかずの無法地帯になっているのは良くあると思います。
――― 商品タイトルにキーワードが大量に入っているケースは確かによく見ますね。Google としてもシンプルなタイトルを推奨しているのでしょうか?
「ファインド広告とデマンドジェネレーション広告の商品フィードのポリシー要件」をみるとシンプルなタイトルが推奨されています。たとえば、キーワードの「羅列」が NG であると要件に明記されています。
ショッピング広告には問題なく掲載できていても、要件が厳しいファインド広告とデマントジェネレーション広告には掲載できないケースも発生しています。
※参考:ファインド広告やデマンドジェネレーション広告における、商品フィードの [title] 属性ガイドライン
ファインド広告やデマンドジェネレーション広告は Gmail や YouTube のインフィードにも表示されます。そのため、Google が各フォーマットに合わせようとした時に、シンプルな方がやりやすいという事情がありそうです。
以前と異なり一つの商品情報をショッピング広告だけでなく、色々なネットワークに出せるようになったことで、今までと傾向が変わってきていると感じています。
媒体ごとにデータフィードをどう最適化していくか
――― データフィードの品質を維持することが SGE にもショッピング広告にも重要であることがよくわかりました。しかし、高い品質を維持するのは難しい印象です。
Google だけでなく Meta など各媒体ごとに品質を維持するにはリソースが必要ですが、人手が足りず難しくなってきています。
たとえば、Microsoft ショッピング広告に出稿する際に、Google Merchant Center のデータフィードをインポートすることができます。しかし、補助フィードが適用される前のデータがインポートされるので、Microsoft 用に別の対応が必要になります。
他にも Shopify には各媒体にデータフィードを連携するアプリがあり、商品データの連携自体はできますが、媒体ごとに最適化しようとすると同じようにリソースが必要となります。
さらに LINEヤフーが 2023 年 12 月に発表した検索連動型ショッピング広告だと、データフィードの形式が他の媒体と異なるので、別途対応が必要です。
時間をかければ媒体を増やし、もっと成果は出せるけど、それができないシーンが増えてくるのではないかと考えています。媒体ごとにタイトルを変えるだけで時間がなくなることも出てくると思います。
人手がすぐに増やせない、けどデータフィードを高い品質で維持したい場合は、dfplus.io のようなデータフィード管理ツールの導入も検討してみて欲しいですね。
まとめ
EC 事業者は SGE を悲観的に捉える必要はなく、むしろ SGE にショッピング広告が表示されるようになるため、新たにトラフィックを増やすチャンスとなります。SGE を含めてショッピング広告からのトラフィックを最大化するためには、データフィードの品質を維持し最適化することが重要になります。
データフィードについてお困りのことがある方は、Yuwai 株式会社もしくは dfplus.io にお問合せください。