サードパーティ Cookie の規制が進む「ポスト Cookie 時代」。Apple のブラウザである Safari では 2020 年 3 月に完全にブロック、Google のブラウザ Chrome でも 2024 年初頭から末にかけて廃止に向けた具体的なスケジュールが示されています。
広告運用においても、リターゲティング広告の効果が出にくくなり、広告の効果測定データの欠損が多くなるなどの影響がすでにあらわれていますよね。
Cookie に頼ることのできないこの環境下で「“計測できない部分”に対して仮説を立てて考え続けていくのが大切」と語るアナグラムの小山さんに、いま行っている具体的な対策や今後の展望についてお話を伺いました!
お答えいただいた方: 小山 純弥 さん アナグラム株式会社マネージャー。学生時代から、インターネット広告代理店にてリスティング広告の分析・運用を経験。2014 年 8 月よりアナグラムに参画。マネージャーとして広告運用の社内メンバーをフォローしながら、技術メンバーのマネジメントも行い、クライアントの技術サポートや社内情報システムも担当するなど、多岐にわたる業務を行う。
リターゲティング広告に頼らず「買う理由のある」広告配信の設計を
―――サードパーティ Cookie 規制による影響の 1 つに「リターゲティング広告の効果が出にくくなる」というものがあります。何か対策をされていることはありますか?
一度サイトを訪れて離脱したユーザーに再アプローチできるリターゲティング広告は確かに有効です。しかしながら、今は Cookie の制限により十分な配信ボリュームを出せなく、リターゲティング頼みの広告配信の設計が効かないケースが増えています。
プラットフォームによっては広告主が保有している顧客データ(ファーストパーティーデータ)をもとにリターゲティング配信を行うことも重要ですが、それ以上に「リターゲティング広告に頼らない広告配信」を設計することが大切だと考えています。
見込み顧客が「買う理由」を想定したコミュニケーション
すでに購入を検討中のタイミングであれば「今ならお得」など、購入の後押しをするだけで十分です。しかしながらリターゲティング広告を前提とした「検討中のタイミング」でしか意味が通じない広告は、他の広告手法で使用すると顧客は何のことか分からず成果を出せないでしょう。
見込み顧客の現状に対して「実はこういう問題があるんですよ」と提示して、そこから購入につなげるコミュニケーション、つまり「買う理由」を想定して先回りしたコミュニケーションができれば、いわゆる「衝動買い」が起こります。
たとえば「サイズが自由に変わる本棚」だと、単に本棚が欲しい方にとっては魅力的ではないかもしれませんよね。しかし「部屋のスペースが有効活用できます」というコミュニケーションだと「部屋が手狭と感じる方」に対して問題提起をして購入いただくことができます。
もちろん、このような発想は以前から大切でしたが、リターゲティング広告に頼れなくなった今では、良くも悪くも「買う理由」に先回りしたコミュニケーションが設計できていないと広告の費用対効果を合わせるのが難しい場面が増えたのではないでしょうか。
このように見込み顧客に対して「買う理由」が分かるコミュニケーションを取れていれば、リターゲティング広告を前提とせずとも費用対効果が見合う広告設計が可能です。
媒体のデータ(シグナル)を理解したターゲティング
―――先ほど「衝動買い」につながるコミュニケーションの話がありましたが、オーディエンスの設定で以前と変化したことはありますか?
Meta などの機械学習による最適化機能に優れた媒体では、商材に合わせて性別や年齢のみターゲット設定を行い、それ以外は必要以上に絞り込みはせずに広告配信を行うことが増えました。
一方で、媒体によっては緻密なターゲティングを行うことで成果を出せているケースも少なくありません。
たとえば Google のファインドキャンペーン(デマンド ジェネレーション キャンペーン)では、ユーザーの「検索語句」を用いた非常に緻密なターゲティングが可能です。また、X(Twitter)広告ではユーザーの投稿などに含まれるキーワードを利用したターゲティングや検索キーワードでもターゲティングができます。
SNS のいくつかのプラットフォームが検索結果に対応する広告のターゲティングを提供していくことからも「検索」という行動が強力なシグナルであることを表しているのではないでしょうか。
参考:検索結果のRPMは高いのだと、Twitterのキーワードターゲティング(の発表)が証明している | LIFT合同会社(LIFT, LLC.)
検索データに限らずですが、その広告媒体が保持している固有のシグナルをターゲティングに利用できる場合には、機械学習や AI に任せずとも、まだまだ工夫の余地があるでしょう。
広告主側が保持しているデータ活用はもはやマスト
また、GA4 をはじめとする計測ツールに、ユーザー ID などを介して広告主側で把握している顧客データ(メールアドレスや電話番号など)を広告配信に活用する重要度も上がってきています。
Google におけるカスタマーマッチにあたりますが、優良顧客の電話番号やメールアドレスを広告管理画面に読み込ませて、それをもとに興味や関心、行動が似ているオーディエンスへ配信を拡張するのは効果的な手法のひとつです。
広告主やビジネスによって“優良”な顧客は、多かれ少なかれそれぞれ異なっているため、広告プラットフォーム側が保持しているデータによるシグナルよりもさらに強力です。広告主側の保持しているデータ活用の重要性は今後もさらに高まっていくと考えています。
―――「優良顧客リストを媒体に読み込む」というお話がありましたが、個人情報の取り扱いは年々、厳しくなっていると思います。個人情報の取り扱いで気を付けていることはありますか?
もちろん、広告媒体側でもプライバシーの保護を最重要視しており、暗号化は当然のことGoogle では個人の健康状態や人種、宗教などの情報を用いた広告配信は制限がなされています。Pinterest がダイエットを煽るような広告を禁止したことも記憶に新しいですね。
参考:Pinterest がボディニュートラルレポートを発表。減量関連の広告を禁止して以来「ダイエット」を含む検索が 20% 減少したことが判明 | Pinterest Newsroom
広告代理店という立場でも、個人情報に関するデータを扱う場合は細心の注意を払っています。さらにいえば、広告媒体の規約や法律的に問題がなくとも、広告をみたユーザーの恐怖心や不安を過度に煽るような表現は控えるなど、倫理観を持って広告運用を行うように務めています。
広告成果の計測環境整備の重要度が上がっている
―――サードパーティ Cookie 規制による影響として「トラッキングデータの欠損」もあげられていました。こちらで対策されていることはありますか?
広告媒体側に合わせてタグの修正を行っています。また、Cookie を介さずタグからハッシュ化したメールアドレスや電話番号などを媒体に送信し、各媒体が持つアカウント情報とマッチングをする「Google の拡張コンバージョン」「Meta の詳細コンバージョン」といったソリューションを導入し、データを最大限に活用して分析できる環境を整えています。
しかし、データの欠落が多い媒体・少ない媒体は出てくるので、そこを補完する意味でアクセス解析もしっかり入れておきたいです。色々なアクセス解析ツールの中で、GA4 は Google シグナル(Google にログインしているユーザーの情報)を照合できるのが大きなメリットのひとつです。
あとは繰り返しになりますが、広告主の保持している顧客情報を最大限に活かすことが大事です。たとえば GA4 の User-ID 機能を用いると広告主側で生成したユーザー ID を個々のユーザーへ紐付けができ、セッションやデバイス、さまざまなプラットフォームをまたいでユーザーの行動を把握できるようになります。
GA4 では、ブラウザに保存される Cookie ベースのデバイス ID での計測から、よりユーザーの行動を正確に把握することに軸足を移していることは、広告の効果をより正確に把握する意味でも重要ではないでしょうか。
LTV を加味した KPI 算出の重要性の高まり
計測環境の整備は LTV(ライフタイムバリュー)を加味した効果測定や KPI の策定にもプラスに作用します。
Cookie を用いて比較的正確に効果計測やターゲティングができていたときは、LTV を加味しない CPA だけを目標としても費用対効果が合っているケースも多くありました。しかしながら、緻密なターゲティングも行えず、効果計測も不十分な中では計測上では費用対効果が合わず、広告運用は縮小せざるを得ません。
そのため、オンライン広告において LTV を加味し、より緻密に許容できる CPA を算出することの重要性は高まっています。
LP も CRM も。広告運用は管理画面の外にも目を向けよう
―――広告代理店としては、広告運用の外側にもサポート領域が広がっている印象です。
そうですね。「ポスト Cookie だから」という訳ではなく、シンプルに広告運用のサービスをより高い水準で提供していく必要があると考えています。
これまでお話をした「Cookie に依存しない計測環境の整備」「GA4 でのユーザー紐づけの実装」の他にも、CRM であれば Salesforce や HubSpot などのツールとの連携も重要度があがってきており、サポートを行うケースも増えてきています。
また、撮影も含めた広告クリエイティブやランディングページ(以降、LP)の制作は大きな需要の高まりに応えて専門チームを拡大して対応領域を広げています。
LPO のツールや LP 制作をセットでご提案することも増えてきており、広告管理画面上だけの作業というのは減ってきていますね。広告運用で成果を出すには管理画面上のことだけをやっていても十分ではないと考えています。Cookie の規制は広告管理画面の外に目を向けるよい機会にもなっているのではないでしょうか。
目には見えづらい「計測できない部分」に対して仮説を立てて考え続けていく
―――最後に「ポスト Cookie」時代のマーケティングについて、アドバイスがあればお願いします!
計測できないからといって、広告をやめないことも大事で「測れないからやらない」は本末転倒です。データがない部分が増えるので、これまでの計測方法とは違う効果の見方をしっかり考える必要があります。いくつか異なる測り方を重ね合わせて、補完して見ていくのが重要です。
広告媒体の選定についても「CPA が高いから止める」ということをやっていても、パフォーマンスは伸ばせません。1 週間の CPA が高くても、それで止めていたら、そのあと伸びたかもしれない可能性が全部なくなってしまいます。とりあえず試す、ではなく「どうしてその施策を行うか」を明確にし、求める成果から逆算して取り組むのがおすすめです。このような考え方については、こちらの記事で詳しく触れていますので、よろしければご覧ください。
参考:CPAの高い媒体は撤退するべき?「逆算式」と「積み上げ式」2つの広告ポートフォリオの考え方|アナグラム株式会社
目に見えている数字だけを頼りに広告運用を行うのではなく、「広告主の目的に合ったターゲティングのシグナルが利用できるか」であったり「クリエイティブの情報はユーザーが買う理由になっているか」「目的に対して十分なリーチが得られるか」などのように目には見えづらい「計測できない部分」に対して仮説を立てて考え続けていく必要性があるのではないでしょうか。
まとめ
ポスト Cookie 時代では、可能な限り広告効果を計測できる環境づくりをしつつ、計測できない部分を予測しながらマーケティング戦略を組み立てることが重要になってきています。これからは広告主・広告代理店を問わず、広告管理画面から飛び出して、幅広い視野を持つことが求められそうです。
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